大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2010年(平成22年)5月のミニミニ法話・お説教

2010年(平成22年)5月

玄禮和尚のお説法

2010年(平成22年)5月

~ 第026回 「母の日に寄せて」 ~

 十億の人に十億の母あれど わが母にまさる母あらめやも  (暁烏 敏)

 「母の日」がきて、暁烏敏(あけがらす・はや)師のこの歌を思い出すと、いつも熱いものがこみあげてきます。そして、この歌のように母を想う心は誰も同じだと思います。

 映画監督の新藤兼人さんは、今年98歳。自身生涯最後の作品として「一枚のはがき」という映画を、今撮影中だそうです。

新藤さんは、子供の頃、お母さんに縫ってもらった久留米絣の着物を、今も大切にしているといわれます。50歳の時にすりきれてしまったので、半纏にしているが、もう継ぎはぎだらけ。

新藤さんが15歳のとき、お母さんは結核で亡くなりました。着物は大人になっても着られるようにと、袂(たもと)が縫いこんであったそうです。

 「この半纏は肌を通して直接、母とつながっているんです。古着屋でも売ってないようなボロだけど、僕にとっては宝物なんです」
といっています。

 同じような話を、小説家の吉川英治さんが語っておられました。

 吉川さんは若い頃、住み込みで奉公をして、随分苦労しました。くじけそうになった時は、お母さんの赤い腰紐を自分のベルトの上に巻いて頑張ったんだそうです。

そ の腰紐は、吉川さんがお母さんに頼んで送ってもらった三冊の本の小包みの紐代わりのものだったのです。包みを開けた吉川少年は、「有難いなあ」と感謝する と同時に、この小包を送るために母さんは何日徹夜で針仕事をしただろうか、と思うと胸がつまって大粒の涙がこぼれたといいます。

色あせた一本の腰紐だけれど、吉川さんの場合もまた、終世忘れられない宝物だったのです。
 あなたにとって、それはなんでしょうか。

   悲母の恩深きこと大海のごとし。(心地観経)

 
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