大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2013年(平成25年)6月のミニミニ法話・お説教

2013年(平成25年)6月

玄禮和尚のお説法

2013年(平成25年)6月

~ 第063回 「体解(たいげ)」 ~

 水田に行儀よく植えられた稲の苗が風にそよいでいるのを見ると、中学生の頃を思いだします。学校の田んぼでヒルに足を吸いつかれ ながら田植えをした経験があるからです。

苗を育て、半年かけて収穫して、獲れた米を持って東京へ修学旅行に出かけました。東京で何を見たか、よりも、かえってそんなことの方が懐かしく思い出され ます。

 今、子どもたちは山や田圃の仕事をする機会がほとんどありません。

「子どものうちに汗を流して働くことを学ばせよう。日本文化の礎である木を見つめなおして、風雪に耐えて育つ苗木から人生を考えさせることも、意義深い」

と考えて、静岡のある中学校では植林を始めました。

 1年生で植林をします。2年になって、下草刈りをします。山の斜面で鎌を手にしての作業は大変です。根気がいります。

ちっぽけな苗木を、一年で1メートル近くまで育ててしまう山の豊かさに驚く一方で、下草をそのままにすると、たちまち苗木を枯れさせてしまう自然の厳しさ も知ります。

数学や国語の時間にはおとなしい子が、真っ先に檜林に入って夢中で作業をする。その生き生きした良い顔が甦る、と担任の先生は言います。

 やがて3年生になると、京都や奈良に修学旅行に出かけます。檜を育てた経験に立って、日本古来からの木造建築を学ぶのです。

世界文化遺産であり、最古の木造建築である法隆寺や、最大の木造建築である東大寺も訪れます。

樹齢二千年余りの檜で建てられた法隆寺が、千三百年余りの生命を、今日なお保ち続けるという神秘に触れたとき、彼らはどんな感動に打たれるでしょうか。

 仏教では「体解」ということを大事にします。身体でわかる、ということです。頭で知るよりも、身体全体で覚えるものだという伝統は、今も生きています。

僧侶の生活の中で大切なことは「一、掃除 二、勤行 三、学問」といって、読経や学問よりもまず掃除に励め、と教えます。

自分の周囲の整理や掃除もろくにできないものが、まともな学問が身につくか、というのです。

知識でわかる間は、まだ本物ではないのです。自ら、身体でわかってこそ、本物となるのです。


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