大覚寺のご紹介

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2014年(平成26年)7月のミニミニ法話・お説教

2014年(平成26年)7月

玄禮和尚のお説法

2014年(平成26年)7月

~ 第076回 「沙羅双樹の花の色」 ~

 永観堂の釈迦堂の正面に向かって右には菩提樹が、左には沙羅双樹が描かれています。

菩提樹は釈尊が35歳の12月8日に、この木の下で悟りを開かれ、80歳の2月8日に沙羅双樹の林の中で静かに涅槃に入られたと伝えられていて、仏教に深 い縁のある樹木です。

この二つの木は、初夏から梅雨の頃にかけて同じ時期に花を咲かせます。

 沙羅は一日花です。降りしきる雨の中で、濡れそぼつ沙羅の白い花がポトリ、ポトリと落ちる風情に、平家物語の作者は「盛者必衰」を感じたのでしょう。

沙 羅。サンスクリット語のシャーラの音写です。

仏典によれば、釈尊がクシナガラで涅槃に入られる時、林の四方に一対ずつ、計8本の沙羅の木があって、(それ ゆえ「沙羅双樹」と呼ばれています)その沙羅が時ならぬ花を咲かせ、対になった一方の木だけが枯れてしまった、とあります。

 日本で沙羅といっているのは、正式には夏椿の花です。シャーラに似ているので「沙羅」と呼ばれています。

同じツバキ科でもサザンカは花弁がハラハラと散りますが、椿は落花という言葉がぴったりくるように、横向きか下向きにポタリポタリと落ちます。

それを芭蕉は 「落ちざまに水こぼしけり花椿」 と詠みましたが、沙羅の花は何故か上向きに落ちるのです。

小ぶりの白い五弁の花が、仏さまの蓮座のように上向きに着地するのは不思議ですね。

仏教で聖なる木としてお寺の庭に植えられるのは、落下の風情が諸行無常 を連想させるからでしょうね。

四季折々にいろんな花が楽しめる日本の自然は、実に美しいと思います。

 静かに散る沙羅の花には、こんな歌があります。
 「いにしへも今もうつつも悲しくて 沙羅双樹の花散りにけるかも」 斎藤茂吉

 「沙羅双樹しろき花散る夕風に 人の子思ふ凡下のこころ」    与謝野晶子
 (凡下というのは、平凡な人間・一般庶民という意味です)

 そしてもう一つ、こんな句もあります。
 「しあわせは静かなるもの沙羅の花」  作者不詳

 さて、沙羅の花を見て、悲しいと感じるか、子を思う親心を感じるか、それとも、静かな幸せを思うか。あなたは、いかがでしょうか。

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