大覚寺のご紹介

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2017年(平成29年)6月のミニミニ法話・お説教

2017年(平成29年)6月

玄禮和尚のお説法

2017年(平成29年)6月

~ 第111回 「鑑真和上を偲ぶ」 ~

 青葉若葉の美しい季節になって、ふと奈良の唐招提寺の開山・鑑真和上を思い出していると、タイミングよく唐招提寺さんから毎年恒例の舎利会(開山御諱)法要の御案内をいただきました。

 天平5(733)年、遣唐使船で入唐した栄叡・普照という二人の僧の役目は、授戒の為の戒師を日本に招くことでした。

二人の熱心な要請を受けた鑑真和上は渡日を決意し、十数人の弟子とともに海を渡ることとしますが、さまざまな困難や妨害に会って5度の渡航計画に失敗します。

天平勝宝5(753)年、失明しながらも、ようやく日本に到着し、聖武天皇や光明皇后をはじめ多くの人々に菩薩戒を授けました。

やがて唐招提寺を建立し天平宝字7年(763)6月6日に亡くなりました。

 唐招提寺さんでは、その命日の前後三日間、新宝蔵が開扉され生前の姿を伝える鑑真大和上像(国宝)が公開されます。

静かに閉じられた両眼、固く結ばれた唇、強い意志を表す顎。そのお姿はほの暗い光の中に端然と座っておられるのです。

 不屈の僧・鑑真和上は、信じがたいほどに才能の豊かな人でした。

その頃、日本にあった一切経は誤りが多くて正確な本文を知ることが出来なかったのですが、失明の和上がすべてを暗唱していたために、誤りを正すことができたといいます。

また、舶来の薬の中身を鼻でぴたりと嗅ぎ分け、誤ることがなかったと伝えられています。

 唐招提寺は美しい寺です。大唐帝国の知性を結晶したかと思えるようなこの鑑真和上に、日本の素晴らしい風景を見せてあげたかったと思った人がいます。

それは、俳人松尾芭蕉。
 「若葉して御眼のしずく ぬぐわばや」

旅の詩人・芭蕉は誰よりも鑑真和上の辛さや苦しさを、深く理解していたのだと思われます。

この俳句には、和上の目に光を戻してさしあげたいという祈りが込められています、泣いているのは、芭蕉自身だったのかもしれません。

芭蕉が鑑真和上の目の中に見た涙の雫は、望郷のためなのか、それとも5度の渡航の失敗で亡くなった弟子達の死を悼む悲しみの涙なのか。

その涙は若葉でぬぐって差し上げるのが最も相応しい。芭蕉はきっとそう思ったのに違いありませんね。

今年の開山忌には、是非お参りしようと思っています。

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